麻布大学いのちの博物館(神奈川県相模原市)に行ってみました。

麻布大学いのちの博物館外観
麻布大学は「獣医」がメインの大学のためか、大学に入るとすぐに馬場があり、その奥に博物館があるというユニークな雰囲気。

内部はドドーンとオオアナコンダ(南アメリカに生息する巨大なヘビ)の骨格標本が壁にあったりと結構インスタ映えする展示なのですが、写真撮影はできないところが多かったため、内部の様子は大学が作った紹介動画をご覧ください(アナコンダは動画の14秒目に登場)。



このアナコンダは動物園で死んだものを麻布大学の先生が解剖したとのこと。

国立科学博物館(東京・上野)で2015年に開催された「大アマゾン展」で展示されていたのもこちらの標本だそうです。


この博物館には特に知り合いがいたわけではなかったのですが、スタッフの方が気さくに話しかけてくださるなどホスピタリティあふれており、好感度大。

大学で「博物館教育論」や「博物館経営論」を教えているのですが、博物館での体験というのは展示以外の面にも大きく左右されるなぁと、来館者の立場になるとひしひしと感じます(博物館の展示以外の体験についてはこちらの記事もどうぞ)。

スタッフの方とお話していて、私が化石屋だという話になった際、「骨格標本を見ると子どもたちが『恐竜~』と言うことがよくある。それに対して親が『そうだよ』と教えるのが悩ましい。」とおっしゃっていました。

麻布大学骨格標本
写真撮影OKスポットにて撮影した、アジアゾウやハンドウイルカなどの骨格標本。

(パッと見で勘違いすることがあっても)大人で本当に誤解し続けている人は少ないので、違いを説明するのが面倒だから「そうだよ」と言っているだけだとは思うのですが、このような話は「骨格標本あるある」でよく目にする光景です。

骨だけの標本を見ると、「化石」という非日常的なイメージになるのだと思いますが、自分の体も含めて、普段表面しか見えない生物の中にもこんな骨格がある、と感じてもらえるといいですよね。

逆に「化石」でも、現在生きている生き物と姿かたちがそんなに変わらないものは、化石ではなく現在生きているものの骨格だと勘違いされることもよくあります(^▽^;)

アフリカゾウとケナガマンモスのバックショット
現在生きている「アフリカゾウ」(左)と化石である「ケナガマンモス」(右)の骨格標本のバックショット(国立科学博物館「太古の哺乳類展(2014年)」にて撮影)。

ちなみに化石屋にとって「現在の生きている生物の骨」は、化石となった生物を復元するおおいなるヒントになるので、機会があれば色々な骨格を見て観察しています。


話はいのちの博物館にもどって、この館が他の自然史博物館と違うのは、家畜や獣医学にまつわる視点で「動物」を見られるところ。

インパクト大だった展示はウシやブタの「毛球(もうきゅう)」。

ネコなどでご存知の方もいるかもしれませんが、毛づくろいでぺろぺろなめた際に飲み込んだ毛が胃の中で球状になったものです。

しかしながら、展示されているものはネコと違いかなり立派!

直径10㎝ぐらいありそうなものもあり、フワフワの毛球はまるで妖怪「ケサランパサラン」の茶色バージョンのようで、それが一つの生き物に見えてしまうほど(ケサランパサランを見たことない方はぜひ検索してみてください!)。

さらに、毛球が無機塩類などでおおわれたものを「被殻毛球(ひかくもうきゅう)」と言うそうですが、これがまるで「光る泥だんご」のようなまんまるツルツルピカピカさ(こちらも見たことない方はぜひ「光る泥だんご」で検索してみてください)。

15㎝ぐらいの巨大なおにぎりのような形の胃石も展示してあり、動物の胃の中は計り知れない驚異の世界でした(来館者アンケート結果でも、このコーナーはアナコンダより人気になることもあるらしいです)。


また、オットセイなどの動物の血管のプラスティネーション標本(プラスチックなどと置き換えて、腐ったりしないようにした標本)は、まるで宝石サンゴのような細やかさ。

生命とはなんと複雑にできているんだ!と思いをはせること間違いなし。

大人気だった国立科学博物館の特別展「人体」(2018年6月17日まで)に貸し出すぐらいですので、見逃した方はこちらに行ってみるのも手かもしれません。


展示フロアはそんなに広いわけではありませんが、ご近所の未就学児が元気よくやってきたり、熱心に1時間以上も骨格をスケッチする20代ぐらいの方がいたりと、パッと見て楽しむもよし、じっくり観察して勉強するもよし、とどちらのニーズも満たしているようでした。

マニアックな動物好きには特におすすめです。

企画展示「3D模型と獣医学教材」
企画展示「3D模型と獣医学教材」では、3Dプリンターで作った模型と実物標本の教育効果について調べた結果も紹介してありました(2018年8月31日まで)。

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博物館には大学の歴史や卒業生に関する展示もありました。

印象的だったのは卒業生の増井光子氏(1937-2010年)のエピソード。

上野動物園(東京)を受けた際、「女性の獣医はこれまでいない」ということで職員みんな採用に否定的だったとのこと。

そんな中、園長の古賀忠道氏が「そうは言ってもやらせてみなきゃ、だめかどうかわからないじゃないか」と言って、彼女の採用が決まったとのこと。

その後、ジャイアントパンダの人工繁殖に日本で初めて成功し、上野動物園の園長にまでなった増井氏はもちろんすごい!という感じではあるのですが、古賀園長の「新しいことを恐れずに受け入れる姿勢」がなければどんなに優秀でも活躍できなかったはず。

世の中に前例がなくてもゴーサインを出す、そんな度胸のある上司や先生になりたいもんだとしみじみ思って館を後にしました。


(百十周年記念館の中に博物館はあります)