練馬区立美術館に「電線絵画展」を見に行きました(2021年4月18日まで)。
美術館前のポスター
よくこんな斜め上のテーマ思いつきましたな。


実は、外国からいらした方に「日本人は美感があるのに、どうして電線を気にしないのか?」と聞かれて答えに窮したことがあります。
金屏風に赤い傘と一緒に撮影している著者
それは京都で開催された、国際博物館会議(International Council of Museums)でのことじゃった。

「正直、景色の写真撮る時以外はそんなに気にならないんだよね~。慣れなのかな~??」って自分でもよくわからなかったので、ずっと気になっていたんですよね、この質問。


今回の展示の最初に掲示されていた年表にも、「1888年に神戸の外国人居留地では、風致を害するということで電線の地中化が初めて行なわれた」と書いてあり、海外からお越しの方には、昔っから嫌われているということを再確認。


まぁ、日本に長くお住まいの方も、あえて好きではないかと思いますが、特に気にならない理由をこの展示で見つけましたよ。
雪の降る街並みの中心に電柱がある作品
「雪に暮るる寺島村(東京十二題)」、川瀬 巴水(はすい)(1883-1957年)、1920年

この作品は今回の展示では展示されていないものなのですが、電柱がセンターでもステキだ!というのを実感いただければと(東京国立近代美術館にて撮影)。

元々、川瀬氏の版画が好きなんですが、今回、電線の作品(5点)が集められていて、萌えましたよ。

川瀬氏の作品は、アップルの故スティーブ・ジョブス氏も買ったというように、海外の方にも人気なので、今度聞かれたらこのような作品を紹介してみよう!


そして、個人的な一押しは、河鍋 暁斎(きょうさい)(1831-1889年)が描いた「電信柱」の「掛け軸」!?(明治前期)

約16㎝の幅に描かれた、すべてをそぎ落としたその姿。

なんで電信柱を描いたのかさっぱりわかりませんが、すごい人が描くとどんな題材でも芸術の域に達する、ということが実感できて、4回も見に戻りました。

この作品は、今回の企画では3月28日までの展示。河鍋暁斎記念美術館(埼玉県)が所蔵しているので、そこでまた展示される機会があったらぜひ。


また、これまで知っていた絵でも意外な見方ができたりします。

岸田 劉生(りゅうせい)(1891-1929年)の有名な坂道の絵「道路と土手と塀(切通之写)」。

今回の展示では、この絵で描かれた場所をもっとひいた場所から描いた絵が展示されています(「道路と土手と塀」は展示されていません)。

それを見ると、なんとあの手前に描かれた影の主が「電柱」であることがわかってびっくり。

ずっと木だと思っていたのですが、重要文化財に電柱の影が写りこんでいたとは!

美術の教科書で出会ってから数十年、尚更好きになりました。


「電線」というテーマで集めたことで、これまで興味のなかった作家にも興味を持つことができ、案外、好き者だけの企画、でもなかったところにチョイスのすばらしさを感じました。
電線絵画のタペストリー
そして、近代化、災害、戦争、遊郭、米軍基地など、様々な日本の歴史と課題についても思いをはせずにはおれない、結構ディープな展示でもありました。


また、電話用の「電信柱(電信線)」と電気用の「電柱(電線)」の2種類があることも、人生で全く気にしたことありませんでしたが、帰りはもう気になってしまって(この2つと電車の「架線」の3つに分けて展示もされていたりするというマニアックさ)。
電柱と電線についている碍子
碍子(がいし)という、電線から電柱に電気が伝わらないようにするための器具まで展示されていて、帰りは人生で初めて電柱の上をマジマジと観察しました。

碍子は主に磁器でできていて、(信じられないかもしれませんが)展示室ではまるで茶器のように美しかったですよ(そしてそれを描いた掛け軸も美しかった...)。

展示会場の様子が見られます(約4分、音声なし)。


以前、景色を撮影したけれど「電線が邪魔でいまいち」と思っていたものがいくつかあります。
電柱が中央に写っている夕焼けの写真
それが、「いけてる写真だな」と感じるように。

小さなことかもしれませんが、「世界の見方が変わる」という、博物館に行く醍醐味を存分に味わわせていただきました。

電柱マニア」、須賀亮行 著、2020年

こんな本まで読んでしまうほどに成長(^▽^;)


企画を考えた学芸員さんに拍手!!


練馬区立美術館は駅から5分程度のところです。