オーストラリアの絵本作家「ショーン・タン」の展示を見に「いわさきちひろ美術館」(東京都練馬区)行きました。

ショーン・タンの世界展ポスター
この不思議な生き物が描かれたかわいいチラシ(ポスター)を見て、どうしても行きたくなってしまいました。

どこだったか忘れてしまったのですが、違う目的で行った美術館に彼の代表作「アライバル」の原画が数点展示されていて、なんとなく気になっていたところ日本初の大規模個展開催とのことで、勝手にこれは運命だ!と(^▽^;)

アライバル」、2011年

「アライバル」は、様々な理由でこれまで暮らしていた場所を離れなければならなくなり、初めて訪れた場所で生活して行く人々の様子が「文字なし」で描かれている作品です。

市場で何かを買おうとするけれど、言葉が通じないので絵をみせたり、ジェスチャーしたりするも、違うものをすすめられたりする。

この展示の副題「どこでもないどこかへ」にあるとおり、遠い空想の世界のように描かれつつも、「自分だけが分からないとまどい」や「だんだん通じ合っていく温かさ」などを通して、時間や場所を超えた誰にとっても想像できる「どこか」になっています。


今回の展示では、原画だけでなく制作過程の様子が紹介されていて、「SFのような奇妙な世界」なのにすごくリアリティがある理由がよくわかります。

なんと、描く予定の人物や生き物、構図を実物(立体)で再現し、それを写真で撮影してから絵にしていたりしています。

こんな映画制作のような方法もあるのだと、絵本を見る目が変わりました。


他にもたくさんの絵本が紹介されていたのですが、彼の作品は、小さきものの小さなことへの描写が秀逸。

ちょっぴりダークな異世界ながらも、小さな灯のような希望がある作品で、絵本といえども日々現実に向き合う大人におススメ。

そして、個人的一押しは「エリック」(2012年)。

風貌はゆるキャラみたいですが、留学生として違う地に来たエリックの話。

私がすごーく共感したのは、エリックを受け入れたホストファミリーがその地の観光地や見どころなど、一般的に「楽しい、すばらしい」と思われているところを一生懸命紹介しようとするのですが、エリックが興味を持つのは日常的な些細なことばかり。

そしてその些細なことに対して、ホストファミリーは疑問に思ったこともないので要領を得ない返答しかできない。

色々と伝えたいと思うのになんだか空回り、という気持ちが淡々とした短い文章ながらも上手く描かれています。

異なる文化を持った人とわかりあえないような気がした時に、ポッと勇気を与えてくれる物語です。


ちなみに、関連イベントとして「どこにもいない生き物を描こう!」が行われていました。
「どこにもいない生き物を描こう」のやり方案内

身近なものを組み合わせて、どこにもいない生き物を創るというもの。

アライバルに登場したキュートなキャラも「オタマジャクシ」と「オウム」と「ネコ」を掛け合わせてできたものらしい。

何かを「新しく創る」というとすごく難しそうですが、「今あるものの組み合わせ」という方法がわかれば、みんなすごいクリエイターに。
来館者の創った生き物(ゾウ×カンガルー×ワシという条件)
ゾウとカンガルーとワシを組み合わせて...

来館者の創った生き物(ゾウ×カンガルー×ワシでエレカンシー)
「エレカンシー」。 11歳すごい。

来館者の創った生き物(どんぐり×まぐろという条件)
ドングリとマグロを組み合わせて...

来館者の創った生き物(どんぐり×まぐろでエイコーンツナ)
「エイコーンツナ」。 永遠の6歳すごい!

このようなイベントに参加するのは絵を描くのが好きな方が多いとは思いますが、他の作品もすばらしく、これらを見ているだけでもかなり楽しめます。


ちなみに、古生物から生物進化を研究していた私としては、ひと昔前に流行った「フューチャー・イズ・ワイルド」(2004年)を思い出しました。

ただの想像ではなく、古生物や現在の生物を参考にして描かれた未来の生き物たちの姿が紹介されています。

生物40億年の歴史を見ていると、生物はずっと形が定まったものではないことはよく感じます。

常識だと思っていることの視点を変えるこのような「遊び」は時々必要だな~と(´▽`*)


ショーン・タンが創った生き物などは彼のホームページでも楽しめるので、のぞいて見てください(英語ですが絵だけでも楽しめます)。



開催していた「いわさきちひろ美術館」は彼女の住んでいた家を美術館にしたものなのでこぢんまりとしていますが、とても落ち着いた雰囲気のすてきな場所です。
ちひろ美術館の二階の廊下から庭を眺める
二階から庭を眺める。

こちらでの展示は2019年7月28日までですが、JR京都駅にある「美術館「えき」KYOTO」 で2019年9月21日から10月14日まで開催されるので関西方面の方はぜひ(詳しくはこちらのホームページをご覧ください)。
[追記:石ノ森漫画館(宮城県石巻市)でも2020年2月11日まで開催とのこと。]


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昨年、博物館でのインクルージョンに関する国際学会に参加しました。
インクルーシブミュージアム2018の看板
アルハンブラ宮殿(グラナダ・スペイン)。

話をしていると、参加している人の国名が一言では言えない感じが。

国籍はカナダだけどドイツ在住とか、

イタリア出身でドイツの大学院で学んでいるけど、日本にもいたから日本語も少し話すとか、

中国出身だけどオーストラリアで教授とか、

日本にいると生まれた国と住んでいる国が一緒の人が多いのですが、そうでない人がほとんど(研究職ゆえに海外に出る人が多いのだと思いますが)。

なのでだんだん「○○人」という概念がぼやける感じがしました。

このような普段何気なく使っている「○○人」という概念について、参加者の方が紹介してくれたTEDの動画が新たな見方を教えてくれるのでよかったら見てみてください(約15分)
「出身国の代わりに出身地域を尋ねよう」(タイエ・セラシ、TEDGlobal、2014)

私も何の気なしに国名を聞いていたけれど、そこから何を判断しているのか考えさせられました。


ちなみに、今年度(2019年)の学会の開催国はブエノスアイレス(アルゼンチン)。

移民に関する博物館で行われます(Muntref, Museum of Immigration)。Inclusive museum2019

これから日本に働きに来る外国の方のことがさかんに言われていますが、歴史をほんのちょっと振り返っただけでも日本から外国に行って働き、暮らした人がたくさんいました。

旅行や留学、就職から移住まで、希望したり、やむなくだったりと色々な状況がありますが、他の文化を受け入れたりする時もあれば、逆に受け入れられたりする時もある、「お互い様」というシンプルな視点を忘れないようにしたいです。