博物館のインクルージョンに関する国際学会に行った際、エクスカーション(見学旅行)で訪れた「Museo Caja Granada Memoria de Andalucia」(グラナダ)。



スペインの南部「Andalucia(アンダルシア)」の歴史、自然、美術を扱っている地域博物館です。
博物館の外観
「図書館」や「マルチメディアセンター」に「劇場」と、「文化なら全部ここで!」という感じのカルチャーセンターの中にあり、上の階にはグラナダを一望できるレストランもあります。

そして博物館の内部も良い意味で全部一緒くた。

世界の多くの博物館では、たとえ一緒の建物に入っていても「歴史のコーナー」や「自然のコーナー」などそれぞれ分野で展示が分けられていることがほとんど。

しかしながら、実際にはそれぞれからみあっているため、この博物館のように歴史と美術と自然が隣り合って展示されている、本当の意味での「総合博物館」は、自分の興味以外にも関心を持つことができるし、それぞれの事象につながりができるように感じます。


さて、博物館は資料(展示物)の保存上「さわらないでね」というものが多いのですが、ここは「どうぞさわって博物館(Please touch museum)」とのこと。

アンダルシアには世界遺産になるような遺跡がたくさんあるのですが、その紹介とともに、建築物の模型が手前に展示されています。
展示されているさわれる宮殿の模型
10世紀のザフラ―宮殿(コルドバ)の「王の間」の触れる模型。

奥側にはこの時代の様子を表す地図などが平面で展示されているのですが、その手前には凹凸のある地図(触地図)もあります。
凸凹で建物のあった位置がさわってわかる地図
視覚障害を持つ方でも、それぞれの建物がアンダルシアのどこにあるかパッとわかります(色のコントラストがあると弱視の方にも尚よさそうですが)。

また、歴史的な彫刻(ローマ時代)について、その作品(レプリカ)だけでなく、どのように作られたのか、その制作過程や道具もさわってわかるように展示されています。
彫刻作品がどのような道具で彫られていくか段階ごとに示す
視覚障害を持つ方だけでなく、美術品として飾るように展示されているとスルーしてしまう人も、これだとさわって興味を持つ感じがします(障害持つ方が楽しめる博物館を作ると障害を持っていない人もより楽しめる博物館になることについてはこちらの記事もどうぞ)。

また、この地方の家畜品種の羊の毛や、アフリカから移入してきた動物などの足跡などもさわれるように展示されていて、
羊の毛や移入してきた動物の足跡がさわれる展示
それらの展示(扉状になっている)を開くと中に説明やモノが展示されています。

元々「博物館」は「視覚重視(「見る」というアクティビティがほとんど)」の施設なのですが、国際学会でも「マルチセンサリー(Multisensory)」というキーワードがよく出てきたように、「視覚」だけでなく、先に紹介した「触覚」などを含めた色々な感覚を使って見学できるよう工夫されていました。
植物とエッセンシャルオイルの展示
この地方特有の植物から作られるエッセンシャルオイルについての紹介。植物の標本がケースの下にあり、その上の塔みたいなものの右側にあるハンドルを回すと上の穴から香ります。

音楽文化の展示では、
弦楽器の音を確かめられる展示
古典的な楽器(?)を実際につまびいたり。

他にもあれこれできる仕掛けが満載で一つ一つ試したくなります。


そうはいえども、やはりたくさんさわられると劣化してしまうものもあるのですが、そこを「さわらないで」という表示ではなく、展示のデザインで解決しているところがステキ!
触ってよいものを手前に展示している様子
手前にさわって大丈夫なモノ、奥の手の届かないところに実物の壺などを展示し、さらにその奥は映像を展示しています。

子ども連れの場合でも、子どもがさわってしまうのを気にせず楽しめますし、大人でも注意書きに気が付かずにさわってしまうことがあるので(そして悪気はないのに注意されてばつが悪い)、博物館と来館者両方にとってストレスフリーなデザイン。


そして、アンダルシアは地中海に面しており、広大な砂浜が広がる地形なのですが、そのような自然をパネルで紹介しつつも、なんと隣には実際にさわって遊べる砂場もありました。
実際に砂場で遊べる砂浜の展示
このように、子どもたちも遊びながら学べる「チルドレンズミュージアム」のような展示もそこここにありました(砂場はメンテナンスが大変そうなので、その勇気を称えたいです(^▽^;))。

インクルージョンというと、日本では障害を持つ方のことをイメージすることが多いのですが、欧米では(特に障害を持っていない)「子ども」に関することもインクルージョンの一つのトピックだったりします。

また、移民や民族、宗教なども大きなトピック。

グラナダはイスラム教文化だったところにキリスト教文化が入ってきたところ。イスラム文化と歴史を学ぶワゴン
香水や衣装が体験できます。

見学に来る子どもたちには「料理の仕方はイスラム文化から学んだんだよ。こんな風に他の文化から学ぶのは良いことがあるんだよ。」と展示を使って伝えているとのこと。
違う文化の衣装を着せてもらった姿
色々なバックグラウンドを持つ人と一緒に暮らすこれからの日本に、とても重要なヒントが詰まっていると思いました。


床の材質、説明パネルのフォントやコントラスト、車いすユーザーでも利用しやすいようキネクト(腕の動き)で操作できる映像など、他にも工夫が満載。

そして、この博物館ではスタッフとして視覚障害やダウン症、アスペルガー症候群を持つ方も一緒に働いているとのこと。

あまり日本では聞くことのない地域博物館ですが、インクルージョンのすべてがつまったようなステキな博物館でした。


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美術の企画では「刑務所の中にいる女性」による作品展を行ったりもしているそう。
美術系の展示スペース


日常生活でも「多様性(ダイバーシティ)」という言葉がそこここで使われるようになり、「色々な人が手を繋いでニコニコしている」的なイメージを見ることが多くなったのですが、個人的には「絵に描いた餅」のような感じがして、ずっと腑に落ちていませんでした。

そんな中、この館とは関係ないのですが、アビド・フセイン氏(アーツカウンシル・イングランド ダイバーシティ担当ディレクター)のインタビュー記事を読んで「これだ!」と。

彼は、ダイバーシティの解釈は国や人によって違うと述べつつも、本質は「社会の中でまだ声を上げられていない人たち、代表とされていない人たちが誰なのかを見極め、考える姿勢のこと」だと(本文はこちらをご覧ください「ブリティシュ・カウンシル(日本)」のホームページ(https://www.britishcouncil.jp/programmes/arts/topics/diversity-arts-council-england)。

この館のように、日本の博物館も色々な形で、小さな小さな声を拾い上げていくことができたら、と思っています。

(博物館のインクルージョンに関する国際学会の話はこちらの記事もよかったら)